INTRODUCTION

なぜ彼女は、亡くなった親友に
メッセージを送り続けたのか?
誰かを想ったやさしい「秘密」が、
立ち止まっていた人々の心を灯す。
 ウェディングプランナーの梓は、日々の何気ないあれこれを亡くなった親友に送り続けていた。たとえ返事が来なくても――
見逃してしまいそうな微かなふれあいが繋がり、秘密の糸がほどけるとき、思いもよらない幸せの歯車が動き出す。

 2013年に刊行された小説「アイミタガイ」。ゆるやかに交わる連作短編が、一本の映画に生まれ変わった。『台風家族』(19)の市井昌秀が脚本の骨組みを作り、『ツレがうつになりまして。』(11)の故・佐々部清が魂を注いだ企画を受け継いだのは、『彼女が好きなものは』(21)やドラマ「こっち向いてよ向井くん」(NTV)の草野翔吾監督。親友同士の梓と叶海、二人の関係を軸に、一期一会の連鎖が大きな輪になっていく群像劇を紡ぎ上げた。

 主演を務めるのは黒木華。かけがえのない存在だった友を失い、立ち止まってしまう主人公・梓の心の機微を細やかに演じ上げる。梓との結婚に踏み切りたい交際相手の澄人を中村蒼、梓の良き理解者で亡き親友の叶海を藤間爽子がつとめる。さらに、草笛光子、安藤玉恵、松本利夫、升毅、西田尚美、田口トモロヲ、風吹ジュンら実力派が顔を揃え、人間ドラマのアンサンブルを奏でる。

STORY

見逃してしまいそうな微かなふれあいが繋がり、秘密の糸がほどけるとき、
思いもよらない幸せの歯車が動き出す
 ウェディングプランナーとして働く梓(黒木華)のもとに、ある日突然届いたのは、親友の叶海(藤間爽子)が命を落としたという知らせだった。交際相手の澄人(中村蒼)との結婚に踏み出せず、生前の叶海と交わしていたトーク画面に、変わらずメッセージを送り続ける。同じ頃、叶海の両親の朋子(西田尚美)と優作(田口トモロヲ)は、とある児童養護施設から娘宛てのカードを受け取っていた。そして遺品のスマホには、溜まっていたメッセージの存在を知らせる新たな通知も。

一方、金婚式を担当することになった梓は、叔母の紹介でピアノ演奏を頼みに行ったこみち(草笛光子)の家で中学時代の記憶をふいに思い出す。叶海と二人で聴いたピアノの音色。大事なときに背中を押してくれたのはいつも叶海だった。梓は思わず送る。「叶海がいないと前に進めないよ」。その瞬間、読まれるはずのない送信済みのメッセージに一斉に既読がついて……。

「アイミタガイ」=「相身互い」
誰かを想ってしたことは、巡り巡って見知らぬ誰かをも救う。
誰の胸にも眠っている助け合いの心を呼び起こし、
何気ない毎日をやさしく照らす、
あたたかな物語が誕生した。

CAST

黒木華(秋村梓 役)
Kuroki Haru
中村蒼(小山澄人 役)
Nakamura Aoi
藤間爽子(郷田叶海 役)
Fujima Sawako
安藤玉恵(稲垣範子 役)
Ando Tamae
近藤華(中学生の梓 役)
Kondo Hana
白鳥玉季(中学生の叶海 役)
Shiratori Tamaki
吉岡睦雄(車屋典明 役)
Yoshioka Mutsuo
松本利夫(EXILE)(羽星勝 役)
Matsumoto Toshio
升毅 (福永 役)
Masu Takeshi
西田尚美(郷田朋子 役)
Nishida Naomi
田口トモロヲ(郷田優作 役)
Taguchi Tomorowo
風吹ジュン(綾子 役)
Fubuki Jun
草笛光子(小倉こみち 役)
Kusabue Mitsuko
黒木華 (秋村梓 役)
Kuroki Haru
1990年、大阪府出身。2010年、NODA・MAP 番外公演「表に出ろいっ! 」でデビュー。『小さいおうち』(14)で第64回ベルリン国際映画祭銀熊賞を日本人最年少で受賞。そのほか映画『リップヴァンウィンクルの花嫁』(16)『日日是好日』(18)『浅田家!』(20)『先生、私の隣に座っていただけませんか?』(21)『せかいのおきく』(23)『青春18×2 君へと続く道』(24)、ドラマ「凪のお暇」(TBS/19)「イチケイのカラス」(CX/21)「僕の姉ちゃん」(TX/22)大河ドラマ「光る君へ」(NHK/24)など幅広く数多くの作品に出演。映画『八犬伝』(24)の公開が控える。
- Comment -
草野監督と初めてご一緒しましたが、とても暖かい方で、穏やかに撮影に参加できました。
迷いの中でも、人と人の繋がりを改めて感じられる、そっと背中を押してくれるような、寄り添ってくれるような映画だと思います。
中村蒼 (小山澄人 役)
Nakamura Aoi
1991年、福岡県出身。2006年に主演舞台「田園に死す」で俳優デビュー。『ひゃくはち』(08)で映画初主演をつとめる。主な出演作に佐々部清監督の映画『東京難民』(14)ほか『映画ネメシス 黄金螺旋の謎』(23)、連続テレビ小説「エール」(NHK/20)「らんまん」( N HK/23)「仮面ライダーBLACK SUN」(Amazon Prime Video/22)「沈黙の艦隊 シーズン1~東京湾大海戦」(Amazon Prime Video/24)「ギークス~警察署の変人たち~」(CX/24)などがある。25年1月より放送のNHK 大河ドラマ「べらぼう~蔦重栄華之夢噺~」、1月公開の映画『室町無頼』にも出演が決定している。8/23(金)より配信のApple TV+ ドラマシリーズ『Pachinko シーズン2』への出演が決定、自身初の海外製作作品への参加となりハリウッドデビューを飾る。
- Comment -
様々な理由で一歩を踏み出せずその場に留まる登場人物達の背中をささやかな毎日にある小さな優しさや心遣いが奇跡を起こしてそっと押してくれます。
今回僕が演じた小山澄人はタイミングが悪くどこか抜けているけど大切な人を救おうと奮闘します。
そんな彼の純粋な心はとても美しく、日々生きている姿を見ていると"目の前の人を助ける事が明日の自分を救う事に繋がるかもしれない"と思えてきます。
さらにこの映画を観終わった後には"アイミタガイ"という言葉がじんわりと沁みて暖かく包んでくれると思います。
藤間爽子 (郷田叶海 役)
Fujima Sawako
1994年、東京都出身。幼少より祖母である初世家元藤間紫に師事し、7歳で歌舞伎座の初舞台を踏む。2021年に三代目藤間紫を襲名。日本舞踊家として活動する一方、大学時代には劇団「阿佐ヶ谷スパイダース」に所属し、2017年に連続テレビ小説「ひよっこ」(NHK/17)で俳優デビュー。主な出演作は映画『コンビニエンス・ストーリー』(22)『夜明けのすべて』(24)『九十歳。何がめでたい』(24)、ドラマ「マイファミリー」(TBS/22)「silent」(CX/22)「ドラフトキング」(WOWOW/23)「こっち向いてよ向井くん」(NTV/23)連続テレビ小説「ブギウギ」(N HK/ 23)など。9月公開の映画『夏目アラタの結婚』、10月公開の映画『チャチャ』にも出演が決定している。
- Comment -
アイミタガイ。相身互い。何かあったときはお互い様だよという気持ち。
そんな優しい想いやりが人と人とを繋いでいく。日々何気なく発せられていた言葉や行動に勇気をもらうこともあるし、また反対に、自分が人の背中を押していることもあるかもしれない。
大切な家族、友人、恋人、もう会うことがない人たちも、その出会いが今の私をつくってくれていた。
そう気付かせてくれる温かく優しい映画だと感じました。是非映画館で観て頂けたら嬉しいです。
安藤玉恵 (稲垣範子 役)
Ando Tamae
1976年、東京都出身。早稲田大学卒業後より俳優として活動。近年の主な出演映画に『波紋』(23)『PERFECT DAYS 』(23)映画『ラストマイル』(24)『THE 3 名様Ω』(24)がある。他の出演作に、連続テレビ小説「らんまん」(NHK/23)、ドラマ「拾われた男」(NHK/22) 「阿佐ヶ谷姉妹の のほほんふたり暮らし」(NHK/21)、舞台「桜の園」(23)「スプーンフェイス・スタインバーグ」(24)、CM「東京ガス」(23)など。
近藤華 (中学生の梓 役)
Kondo Hana
2007年、東京都出身。2021年にマクドナルドのCM でデビューして以来、三井のリハウス、資生堂など話題のCM に出演。以降、ドラマ「金田一少年の事件簿」(NTV/22)「ばらかもん」(CX/23)「アンチヒーロー」(TBS/24)などに出演し、注目を集める。SNS で自作の絵やアニメーションを発表するなどクリエイティブな分野でも才能を発揮。公開待機作に映画初出演となる『サユリ』(24)がある。
白鳥玉季 (中学生の叶海 役)
Shiratori Tamaki
2010年、東京都出身。2016年に連続テレビ小説「とと姉ちゃん」(NHK/16)でドラマ初出演。同年公開の映画『永い言い訳』(16)でスクリーンデビューを果たす。近年出演作として『流浪の月』(22)『極主夫道ザ・シネマ』(22)『正欲』(23)『からかい上手の高木さん』(24)、ドラマ「どうする家康」(NHK/23)「いちばんすきな花」(CX/23)「ユーミンストーリーズ」(NHK/23) など。
吉岡睦雄 (車屋典明 役)
Yoshioka Mutsuo
1976年、広島県出身。女優・演出家の前川麻子に師事し、俳優活動をスタート。2024年配信の黒沢清監督『Chime』(24)では主演をつとめた。近年の主な出演映画に『とんび』(22)『雑魚どもよ、大志を抱け!』(23)『湖の女たち』(24)『Cloud』(24)などがある。森山未來主演のロトスコープアニメ映画『化け猫あんずちゃん』(24) には声優として出演している。
松本利夫(EXILE) (羽星勝 役)
Matsumoto Toshio
1975年、神奈川県出身。2001年ダンス&ボーカルグループ「EXILE」のメンバーとしてデビュー。2007年に劇団EXILE の第一回公演「太陽に灼かれて」で俳優デビューし、以降、映画やドラマにも出演を重ねる。2015年にパフォーマーを卒業後は演技の仕事を中心に活動中。主な出演作に映画『リトル・マエストラ』(13)『謝罪の王様』(13)『無頼』(20)などがある。
升毅 (福永 役)
Masu Takeshi
1955年、東京都出身。1981年『ガキ帝国』で映画デビュー。TV ドラマ「沙粧妙子-最後の事件-」(CX/97)や、連続テレビ小説『あさが来た』(NHK/15)で話題に。佐々部清監督の『八重子のハミング』(17)で長編映画初主演。近年の主な出演作は映画『大綱引きの恋』(20)『嘘八百 なにわ夢の陣』(23)『女優は泣かない』(23)連続テレビ小説「ブギウギ」(NHK/23)など。
西田尚美 (郷田朋子 役)
Nishida Naomi
1970年生まれ。広島県出身。主な出演作に、映画『凪待ち』(19)『青葉家のテーブル』(21)『土を喰らう十二カ月』(22)『ヴィレッジ』(23)『言えない秘密』(24)『傲慢と善良』(24)。連続テレビ小説「カムカムエヴリバディ」(NHK/21)、「うきわー友達以上、不倫未満ー」(TX/21)、「くすぶり女とすん止め女」(TX /23)、「ハマる男に蹴りたい女」(EX /23)、「ひだまりが聴こえる」(TX/24)、「海のはじまり」(CX/24)、「HEART ATTACK」(FOD/24)。舞台「夏の砂の上」(22)、「鎌塚氏、羽を伸ばす」(22) など。
田口トモロヲ (郷田優作 役)
Taguchi Tomorowo
1957年、東京都出身。映画『鉄男』(89)で注目を集める。俳優、音楽活動のほか、映画監督としても『アイデン&ティティ』(04)『色即ぜねれいしょん』(09)『ピース オブ ケイク』(15)を発表。近年の出演作に配信ドラマ「サンクチュア-聖域-」(Netflix/23)、「忍びの家」(Netflix/24)、映画『LOVE LIFE』(22)、舞台「千と千尋の神隠し」(22、23、24)など。「新プロジェクトX 挑戦者たち」(NHK)でナレーションを担当中。
風吹ジュン (綾子 役)
Fubuki Jun
1952年、富山県出身。1975年にドラマ「寺内貫太郎一家2」で俳優デビュー。『無能の人』(91)で日本アカデミー賞助演女優賞を受賞。連続テレビ小説「半分、青い。」(NHK/18)ではヒロインの祖母役と語りをつとめた。主な出演映画に『魂萌え!』(主演・07)『海街diary』(15)『浅田家!』(20)『先生、私の隣に座っていただけませんか?』(21)『ちひろさん』(23)『658km、陽子の旅』(23)『愛に乱暴』(24)がある。
草笛光子 (小倉こみち 役)
Kusabue Mitsuko
1933年、神奈川県出身。1950年より松竹歌劇団に入団し、在籍中に映画デビュー。日本ミュージカル界のパイオニア的存在でもある。近年の主な出演作は映画『九十歳。何がめでたい』(24)、大河ドラマ「鎌倉殿の13 人」(NHK/22)など。『老後の資金がありません!』(21)で第45回日本アカデミー賞優秀助演女優賞と会長功労賞を受賞。1999年に紫綬褒章、2005年に旭日小綬章を受章している。

STAFF

原作:中條てい
Chujo Tei
監督・脚本:草野翔吾
Kusano Shogo
脚本:市井昌秀
Ichii Masahide
脚本:佐々部清
Sasabe Kiyoshi
音楽:富貴晴美
Fuuki Harumi
撮影:小松高志
Komatsu Takashi
照明:蒔苗友一郎
Makanae Yuichiro
美術:安宅紀史
Ataka Norifumi
「アイミタガイ」
中條てい 幻冬舎文庫
2015 年1月16日刊行 原作情報はこちら »
原作:中條てい
Chujo Tei
1956年、三重県在住。南山大学文学部仏語学仏文学科卒業。兄を亡くしたことをきっかけに小説を書き始める。2008年に中世ヨーロッパを舞台にしたロマネスクファンタジー「ヴァネッサの伝言」を刊行。2010年には続編にあたる「ヴァネッサの伝言 故郷」が出版される。その他の著書に「空に、祝ぎ歌」(いずれも幻冬舎ルネッサンス)がある。2012年に斎藤緑雨文化賞長編小説賞を受賞。「アイミタガイ」は初の映像化作品となる。
- Comment -
「相身互い」…あまり聞かれなくなった古い言葉ですが、今にも通じる日本人の心の在り方を表わした言葉だと大切に感じてきました。
この「アイミタガイ」という言葉とその心が世代を継ぐ若い監督によって、切なくも温かな映画作品として生まれたことに感謝と喜びを覚えます。
監督・脚本:草野翔吾
Kusano Shogo
1984年生まれ。群馬県出身。早稲田大学在学中に長編監督作が一般劇場で上映。2012年、オリジナル脚本の長編映画『からっぽ』が国内外の映画祭に選出される。2016年には川口春奈と林遣都の主演で人気漫画を映画化した『にがくてあまい』を監督。その後『世界でいちばん長い写真』(18)『彼女が好きなものは』(21)で監督と脚本をつとめ、後者は第28回釜山国際映画祭Open Cinema 部門、第34回東京国際映画祭Nippon Cinema Now に正式出品された。そのほか連続ドラマ「消えた初恋」(EX/21)「こっち向いてよ向井くん」(NTV/23)でもメイン監督を担当するなど今後の活躍が期待される。
- Comment -
聞き慣れない、おまじないのような言葉だな、と思いながら「アイミタガイ」と題された脚本を読み始めました。
次第にパズルのように繋がっていく脚本に心地よく騙され、読み終える頃には温かな気持ちになったのを覚えています。
佐々部清さんが生前温めていた企画ということでプレッシャーもありましたが、最初に読んだ印象を大事に、自分ができることを精一杯やりました。
この映画が誰かにとっておまじないのようになってくれたら嬉しいです。
脚本:市井昌秀
Ichii Masahide
1976年、富山県出身。劇団東京乾電池の研究生を経て、ENBU ゼミナールで映画製作を学ぶ。『無防備』(07)が第30 回ぴあフィルムフェスティバルでグランプリ、第13回釜山国際映画祭で新人監督作品コンペティション部門最高賞を受賞。2013年に『箱入り息子の恋』で商業監督デビューし、第54回日本映画監督協会新人賞を受賞する。主な監督作は『台風家族』(19)『犬も食わねどチャーリーは笑う』(22)など。
脚本:佐々部清
Sasabe Kiyoshi
1958年、山口県出身。1983年よりフリーの助監督として活動し、『陽はまた昇る』(02)で監督デビュー。続く『チルソクの夏』(03)で日本映画監督協会新人賞、『半落ち』(04)で日本アカデミー賞最優秀作品賞を受賞する。主な監督作は『四日間の奇蹟』(05)『夕凪の街 桜の国』(07)『ツレがうつになりまして。』(11)『東京難民』(14)など。2020年に逝去し、『大綱引の恋』(21)が遺作となった。
音楽:富貴晴美
Fuuki Harumi
作曲家・ピアニスト。1985年、大阪府出身。国立音楽大学作曲専攻首席卒業。同大学院修了。現在同大学音楽研究科作曲専攻准教授。2013年『わが母の記』で第36回日本アカデミー賞優秀音楽賞を最年少で受賞。その後3度同賞を受賞。NHK 連続テレビ小説「マッサン」(14)の音楽を担当後、大河ドラマ「西郷どん」(18)、連続テレビ小説「舞いあがれ!」(22)等。主な作品として映画『ホテルローヤル』(20)『大綱引きの恋』(21)『かがみの孤城』(22)『九十歳。何がめでたい』(24)『言えない秘密』(24)、劇団四季オリジナルミュージカル「ゴースト& レディ」(24) など
撮影:小松高志
Komatsu Takashi
1966年、長野県出身。日本映画学校卒業後、撮影助手として『バトル・ロワイヤル』(00)『ピンポン』(02)『壬生義士伝』(03)などに参加。『バトル・ロワイヤルII 鎮魂歌』(03)でB 班のカメラを担当する。撮影をつとめた主な作品は『俺俺』(12)『トリガール!』(17)『ぐらんぶる』(20)『映画 おそ松さん』(22)など。草野監督とは『にがくてあまい』(16)に続いて二本目となる。
照明:蒔苗友一郎
Makanae Yuichiro
1968年、青森県出身。『アカルイミライ』(03)『CASSHERN』(04)『バッテリー』(07)などで照明助手をつとめる。照明を手がけた主な作品は『犯人に告ぐ』(07)『色即ぜねれいしょん』(09)『ゴールデンスランバー』(10)『にがくてあまい』(16)『トリガール!』(17)『映画 おそ松さん』(22)など。撮影の小松高志とは数多くの作品を共にしており、草野監督とも二本目となる。
美術:安宅紀史
Ataka Norifumi
1971年、石川県出身。映画美術会社を経て、『月光の囁き』(99)で美術監督としてデビュー。代表作に『父と暮せば』(04)『デトロイト・メタル・シティ』(08)『南極料理人』(09)『ノルウェイの森』(10)『マイ・バック・ページ』(11)『モリのいる場所』(18)『スパイの妻 劇場版』(20)『彼女が好きなものは』(21)『さかなのこ』(22)『違国日記』(24)などがある。

PRODUCTION NOTE

三人の監督がつないだバトン
 「アイミタガイ」。何やら耳慣れないこの言葉は、ちょうど10年前、2013年に幻冬舎の自費出版ブランドから刊行された連作短編小説のタイトルだ。薦められて同書を手にした宇田川寧プロデューサーは「人とのつながりをストレートに肯定して、照れることなく際立たせている。一つ一つの細かいエピソードも気が利いていて、大人がしみじみと感動できる小説だと思いました」と映画化に乗り出す。

 脚本の初稿を手がけたのは『台風家族』(19)などの監督である市井昌秀。市井の脚本の腕を高く買っていた宇田川プロデューサーの依頼に応える形で、土台となる構成を完成させた。これを読んで監督に名乗りを上げたのが名匠・佐々部清である。佐々部と市井は、市井の自主映画時代から交流があったこともあり、2017年には佐々部の監督作として動き出した。

 ところが2020年3月に佐々部監督が急逝。時を同じくして時代はコロナ禍に突入する。脚本の開発を始めた当初は、東日本大震災の傷が今よりもずっと新しく、そんなときだからこそお互いに助け合って相手を思いやる「相身互い(アイミタガイ)」の精神の大切さを感じたことが企画のきっかけでもあった(ちなみに震災の名残は、耐震用突っ張り棒と澄人が怪我をするエピソードで完成した本編にも残っている)。相身互いの精神を映画にしたい――その思いはコロナという新しい災害に直面してよみがえり、再始動する。

 佐々部からのバトンを受け取ったのは草野翔吾監督だ。大学生の頃は自主映画で群像劇ばかり撮っていたという草野監督は、『世界で一番長い写真』(18)や、『彼女が好きなものは』(21)でもその手腕を発揮している。複数の登場人物の人生が交差する本作の脚本を読み、思いがけず巡ってきた監督の座を引き受けるが、そこには相応の覚悟があった。「僕は佐々部さんにお会いしたこともなく、生前に関係性があったわけでもありません。『佐々部清』という名前の重みは大きく、その名が入った脚本の表紙をめくるまでにはものすごく勇気が必要でした」

 その上で草野監督はこの映画と向き合い、脚本には中学時代の梓と叶海のパートも加わった。梓と叶海が親友であるという関係性そのものが映画オリジナルであり、もともとは回想シーンとして書かれていたが、回想ではなく群像の一部として並列に見せるギミックを草野監督が使ったことで、二人の継続的な結びつきがより強調されることになった。「佐々部さんが撮ろうとしていたであろうことを想像しつつ、これが自分の映画であると言えるものにするために、今、僕が撮るならば、という部分を意識して、テーマが構成にも表れるような形を目指しました」。

 こうして三人の監督による世代をまたいだエッセンスが一つにまとまった。

過去の軌跡が実を結んだキャスティング
 物語の軸となる梓は、草野監督の念願にプロデューサー陣も賛同し、黒木華に決まった。「観客として作品を観ていても尊敬していましたが、実際に監督としての目線で見ると、シンプルに人としてかっこいいなと思いました。表現が生活に根差したものであるというか、独特のリアリティを出せる魅力をあらためて感じました」

 梓と交際中で、結婚を望んでいるがゆえに悩む澄人は、草野監督いわく「どこか間が悪いけれど憎めない。真っ直ぐで優しくて、でも表現が不器用。そんな人柄にぴったり」な中村蒼にオファーした。中村が佐々部監督の『東京難民』(14)に主演していたことも決め手の一つだった。「僕の中では、これが佐々部さんの遺した企画であること、それを自分の映画にすること、その二つが矛盾しないように成立させたい気持ちが強くありました。キャストやスタッフを考えるときもその考えはずっとあって、そういう意味でも中村さんに澄人を演じてもらうのは必然だったと思います」

 草野監督が「自分の両親を思い描いていたかもしれない」と語る朋子と優作を託したのは西田尚美と田口トモロヲ。特に田口とは遠からぬ縁があった。「僕が学生時代に、大杉漣さんに出てもらって撮った群像劇を、田口さんが観に来てくださったことがあったんです。それ以来ずっと、いつかご一緒したいと思っていたのがようやく叶いました」
地方の町に根ざしたロケーション
 撮影は三重県・桑名を中心に行われた。桑名を舞台に決めたのは佐々部で、シナリオハンティングのために現地にも足を運んでいる。草野監督も撮影前に一人で桑名やその周辺の町を見て回った。「佐々部さんの脚本の稿には町の名前までしっかり書かれていたんです。原作でも舞台は特定されていないのですが、佐々部さんが桑名で撮りたいと考えた思いを大事にしたかった。僕自身が現地で感じたこと、桑名らしいと思った風景の特徴を大事にしながら、特別な場所の特別な話に見えないように撮ろうということは、撮影の小松高志さんとも最初に話していました」 

 もう一つ、草野監督にはこだわりがあった。佐々部の稿に繰り返し登場していた「川を渡る電車」という記述である。これは桑名と名古屋をつなぐ近鉄名古屋線のことで、撮影でも本物の車両や駅舎、ホームが使われた。「佐々部さんにとって“川を渡って町に入って来る”という感覚が大事だったのかなと思ったんです。大きな川を電車で渡って、町に入って、そこからどこへ出て行くにしても川を渡らなければならない。そういう土地の環境は物語の舞台として魅力的に感じました。桑名の町の中には水路があるんですけど、川と水路を軸に登場人物たちの生活の地図が想像できたらいいなと思ったんです。僕自身は桐生の出身なのですが、やはり川と川に挟まれた町で、織物のための細い水路が流れる景色が原風景としてある。桑名を訪れたとき、地元のように懐かしく思えた感覚を、映画を観た人にも感じてもらえたらいいなと思っています」

人が生きている手触りを感じられる演出
 何気ない日々のひとコマを丁寧に見つめる演出の中で、金婚式でのピアノ演奏シーンはとりわけ華やかな一幕。こみちを演じた草笛光子は、草野監督も「草笛さんに断られたらどうしようと思った」というぐらい勝負をかけたキャスティングだった。草笛はこのために自宅でピアノを練習し、撮影当日も早めに現場入りして準備を重ねた上で本番に臨んだ。

 このシーンでこみちが着ているブルーのドレスは、草笛のこだわりでぎりぎりまでアイディアを出し合い、生地や色を吟味して選ばれた。「草笛さんの事務所にお邪魔して、見たこともないようなきらびやかなドレスの数々を、ご本人の解説付きで紹介していただいて。草笛さんは『草笛光子のクローゼット』という本を出されているんですけど、その中にこみちさんのイメージに近いドレスがあったんです。それをベースに、衣裳スタッフが背中にバラの飾りをあしらったりしてリメイクしたものを着ていただきました」(草野監督)

 また、劇中にはタクシー運転手や澄人の会社の後輩など、ワンシーンしか出てこない登場人物もいるが、画面の端を通り過ぎる人たちの背景にもそれぞれの人生がある。みんながそこで生活している手触りが、草野監督の演出からは実感をともなって伝わってくる。「それは僕が映画を撮る上でずっと自分の中で大事にしていることでもあります。この人はこういう役割だから、みたいなところだけで撮りたくない。そのせいか、ただの完全な悪人を今まで撮ったことがないんです。佐々部さんの映画を観ていると、佐々部さんにも同じような思いがあったのかなと感じることがあって、自分との共通点があるとしたらそういうところかもしれないと思ったりはしたんですよ。でも、佐々部さんの方が僕よりもはるかに強く人を信じているというか、かなりハードコアなヒューマニストだと感じています。僕はまだそこまでは人を信じきれてないけど、どこかの部分で重なっていたらいいなと思うんです」
主演俳優の声で語りかける主題歌
 エンドロールで流れる「夜明けのマイウェイ」は、70年代に放映されたドラマの主題歌であり、宇田川プロデューサーが市井と脚本を作っている最中から念頭にあった。「悲しみをいくつかのりこえてみました」という歌詞に重ねた、震災からの復興を願う気持ち。それはボーカルをつとめた黒木華の柔らかい声に乗って、世の中に向けた大声の応援ソングではなく、一人一人の個人に寄り添ってくれるような等身大の一曲になっている。「作詞・作曲の荒木一郎さんが、ご自身のライブで弾き語りでカバーしている音源を聞いたとき、アコースティックギター一本のようなシンプルでさりげないアレンジがこの映画に合うのではないかと思いました。黒木さんが歌うと決まったときも、高らかに歌い上げるのではなく、プライベートで語りかけるようなイメージにしたいと伝えました」(草野監督)

 このアレンジも担当した音楽の富貴晴美は、草野監督たっての希望で、ドラマ「消えた初恋」(EX/21)に続く二度目のタッグが実現した。「しかも富貴さんは、過去に佐々部さんの映画を二本手がけられていたんです。今回「夜明けのマイウェイ」のレコーディングをしたスタジオも、佐々部さんと富貴さんが最後に一緒に作業をした場所だった。こういう作品に携わっていると、やはり色々なつながりを引き寄せるんだなと驚きました」

目に見えないつながりを感じて欲しい
 映画が終わってからも、自分の人生のどこかで出会った人を思い出すような感覚で、登場人物のことが思い出される瞬間がある。そういう体験ができる映画は決して多くないが、本作はそんな一本になっている。「この映画は目に見えないつながりを描いていますが、スクリーンの外でもたくさんのつながりに支えられてきたので、自分でも気づいていないような出会いの大切さを映画館で感じてもらえたらと思います」(草野監督)